虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 大日本航空の中央訓練施設は、空港ターミナルからシャトルバスで行き来することができた。
 一般の乗客は立入禁止のエリアなので、空港ターミナルの賑わいとくらべると、訓練施設の建物は静かなたたずまいだった。

 制服姿の九条くんに続いて、私は建物に入った。
 胸がどきどきする。特別な場所に来たことだけじゃなくて、勤務中の九条くんを見るのは初めてだ。

 驚かされたのは、施設のスタッフに対する九条くんの態度で、九条くんは会う人すべてを名前で呼んで、そしていつもの懐っこい笑顔で、皆に丁寧に接している。
 パイロットって、もっと偉そうにしているものかと思っていた。

 そんな九条くんはスタッフたちからも愛されているようで、九条くんが来ると、周りから人が集まって来るような雰囲気だった。

「九条さん、こちらの女性は?」

 スタッフの一人が声をかけてきた。

 九条くんは「ああ」と私の肩を抱くようにして、スタッフの皆さんに紹介してくれた。

「早川理恵さん。俺の婚約者だよ」

 スタッフの間から、歓声が沸き起こった。

「九条さん、ご結婚なさるんですか?!」

「なんだよ、俺が結婚しちゃいけないの?」

「おめでとうございます、素敵な方ですね」

 興味津々で私を見るスタッフたちの視線に囲まれて、顔が真っ赤になってしまう。
 こんな時、妹の真理だったら、気の利いた台詞の一つでも出てくるんだろうけど……。

「おいみんな、早川さんが困っていらっしゃるじゃないか」

 チーフらしい年配の男性スタッフが、助け舟を出してくれた。

「九条さん、シミュレーターの準備はできてます。すぐに始められますよ」

「ありがとう。じゃあさっそく始めようか。それと、彼女に着替えをお願いします」

 当然のように話を進める九条くんに、

「あの、着替えって……?」

 私が訊いたら、九条くんはまたいたずらっぽい目をして、

「せっかくコクピットに座るんだし、理恵もパイロットの制服に着替えたら? スカートだといろいろ大変だよ」

 そう言って笑った。
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