虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「僕は左側に座るから、理恵は右側に座って」
九条くんが言った。
「右の席と左の席は、どう違うの?」
「基本は何も変わらない。ただ、普通は左側が機長の席なんだ」
狭いコクピットの中を、九条くんは慣れた身のこなしで左側の席に身体を収める。
私はたくさんあるスイッチやレバーを引っ掛けないかヒヤヒヤしながら、なんとか右側の席に身を落ち着けた。
「理恵。細かい操縦は全部僕がやるから、理恵は手を添えるだけでいい。でもせっかくだから、簡単に操作方法を教えるね」
九条くんは、シートの目の前にある横長のハンドルを指さした。
「これがスティック、いわゆる操縦桿だ。ついているハンドルを右に回すと機体が右に、左に回すと左に傾く。操縦桿全体を引き付けると機首が上向きに、押して倒すと機首が下を向く」
「……」
「足元のペダルがわかるかい? 理恵」
足元を覗き込むと、操縦桿を挟むように車のアクセルペダルのようなペダルが、左右対になって並んでいた。
「これがラダーペダル。これの右を踏むと機首が右に、左を踏むと機首が左を向く。これは前輪の操作にも連動していて、地上を移動しているときのハンドルの代わりになる。それにこれを踏むと、タイヤブレーキがかかる」
「このハンドルでは、曲がらないの?」
操縦桿のハンドルに手をかけて質問する私に、九条くんは笑って答えてくれる。
「よくある質問だね。でも、飛行機の曲がり方って車とは違って」
九条くんは、両手を使って飛行機の姿勢を示しながら、
「例えば自転車で曲がるときも、曲がる方向に身体を傾けるだろう。あれと同じで、飛行機は向きを変えるときに、まず曲がりたい方向に機体を傾けるんだ。さっきの操縦桿のハンドルでね」
「……」
「でもそのままだと、傾いたまま真っ直ぐ飛んで行くだけだから、同時に曲がりたい方向のラダーペダルを踏むんだ。これを同時に行なって初めて、機体は向きを変えてくれる」
「……」
「ちなみに機体を傾けないままラダーペダルを踏んでも、機体は横滑りするだけでやっぱり思う方向には曲がってくれない」
飛行機の説明をしているときの九条くんの目は、真剣でいきいきしている。
なぜだろう、それがすごく嬉しい。
やっぱり九条くんは、エアラインパイロットなんだね。