虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
滑走路に行くまでの誘導路を、九条くんは管制官の指示に沿って機体を走らせて行く。そして、
「理恵。もうすぐ滑走路だから、Vスピードについて説明するよ」
九条くんが言った。
「Vスピード?」
「離陸滑走する飛行機の速度の目安で、V1が離陸決心速度と言って、それを超えるとトラブルが発生しても離陸を中止できなくなる。VRが機首上げ操作を始める速度。V2が機体が安全に上昇を続けられる速度だよ」
「ヴィー・ワン……」
私は言葉に出して、呟いた。
「Vスピードは機種やその日の天候、積荷の重さによっても変わってくるけど、この機種はこの状態だと、V1が165 ノットになる。だいたい300キロくらいだな」
新幹線並の速さまで加速するんだ──。
「V 1 をコールしてからVRに達すると、ローテートをコールして機首上げ操作を行う。フルパワーのまま離昇して、V2を超えたら、ギアとフラップを格納して、エンジンパワーを適正値に戻して、目標高度まで上昇する。一連の流れになるから」
九条くんは淡々と説明してくれる。
本当にすごい。これがパイロットの世界なんだね──。
そんな話をしている間に、誘導路の先に滑走路の端が見えてきた。灰色のアスファルトに、九条くんが話した『16L』の白い文字が、滑走路の先を頭にして大きく描かれている。
機体は滑走路に入ってから右に90度曲がって、滑走路の向きと進路を合わせて、止まった。
九条くんは「フラップ・ダウン」をコールして、スラストレバーの右横のレバーを倒した。何かが開くような音がする。
そして私に言った。
「理恵、スラストレバーに手を置いて。管制官から離陸許可が出たら、一緒にレバーを最大まで倒そう」
思わず、生唾を飲み込んでしまう。
私は言われた通りに、スラストレバーに自分の左手を置いて、管制官の指示を待った。
そして機体のコールサインの後に、管制官が“Clearance for take off.”とコールした。
「テイク・オフ!!」
九条くんがコールして、スラストレバーに置いた私の左手の上に自分の右手を重ね、レバーを前にいっぱいまで押し倒した。
轟音をあげて、機体が走り出す。
ウィンドウの外の景色が、加速しながら後ろに流れて行った。