虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
富士山を見下ろして
猛然と加速する機体は、細かくガタガタ揺れている。ものすごくリアルで、これがシミュレーターの仮想体験だということを忘れてしまいそう。
「V1」
九条くんがコールした。もう離陸を止められない。
「ローテート」
九条くんはコールすると、操縦桿を静かに引き付けた。機首がゆっくり上を向いて、ふわりと浮き上がる感覚がする。
飛んだ!
飛んでる!!
機首は青い空に向いて加速して、空港のターミナルは斜め後ろに流れて消えた。
「ギア・アップ」
九条くんがギア──タイヤを格納して、
「フラップ・アップ」
フラップも戻した。
「理恵、スラストレバーから手を放して」
九条くんに言われて慌てて手を引っ込めたら、
「……勝手に動いてる!」
スラストレバーが、ゆっくりと起き上がって行った。
「オートスロットルを設定しておいたから、目標速度まで機体が自動で加速してくれる。パイロットは安心して操縦に集中できるんだ」
九条くんは言いながら、操縦桿のハンドルを右に傾けた。機体が大きく、右に傾いていく。
「理恵。今機体は、右に旋回しながら螺旋階段を昇るように高度を上げている。FL200まで上がるから」
「フライトレベル・ツー・ゼロ・ゼロ?」
「飛行高度を表すんだ。100フィート単位の数値で、FL 200は高度2万フィート。メートルなら6千メートルになる」
機体は旋回しながらぐんぐん上昇していく。地上の建物が積み木みたいに小さくなって、東京港を行き交う船がマッチ棒のようにちんまりして、紺色の海面に白い航跡を曳いている。
やがて九条くんは、緩やかに機体を水平に戻した。でもまだ機首がわずかに上を向いて、上昇を続けていることがわかる。
管制官と英語で交信しながら、九条くんが言った。
「理恵、一旦房総半島をかすめてまた右旋回したら、大島上空を通過して西に飛ぶからね」
「どこに向かうの?」
「中部か関空まで飛んでもよかったんだけど、今日はこのまま駿河湾上空でUターンして羽田に戻る」
「そうなんだ……」
もっと飛んで、いたかったな。
そんな私の様子を見て、九条くんはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「駿河湾での180度ターン、理恵にやってもらうからね」