虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 この高さまでくると、地形は地図で見た通りの輪郭を示して、河川や平地と山の境い目、それに海岸線がくっきりとわかる。
 私は学校で習った地理の知識を総動員して、今機体が房総半島を北から南に抜けて、太平洋上に出ようとしているのを知った。

 そのことを九条くんに言うと、

「その通りだよ。すごいね、理恵」

 九条くんは笑いながら、私のシートの前のディスプレイに軽く触れた。表示モードが変わって、GPSで見るような地形表示に切り替わった。

「これが今飛行している場所を、地形図と重ねたもの。横の細かい文字は、機体のコールサインと速度と高度。他にも、今この空域にいる飛行機も表示されている。ちょうど今、房総半島を抜けて太平洋上に出るところだよ」

「ひどいよ、まあくん。こんな機能があるなら最初から教えてくれても……」

「ごめんね、きょろきょろしてる理恵があんまり可愛いかったから」

 そしてまた笑って、言った。

「それに地形から機位や方位を知るのは、パイロットの基本なんだ。理恵はきちんとできているから、偉いよ」

 現役パイロットの九条くんにそう言われると、何か先生に褒められたようで、嬉しい。

「理恵。西へ90度ターンするから、スティックに手をおいて、ラダーペダルに足を掛けて」

 慌てて言われた通りにした。

「力は入れなくていいから、感覚を覚えてほしいんだ。ちなみに、機体の傾きはこの画面で見る」

 九条くんがまた、私のシートの前のディスプレイを指差した。

「じゃあ、いくよ」

 九条くんが操縦桿のハンドルを右に傾けた。機体がまた、右へゆっくり傾いていく。そして九条くんはハンドルを水平に戻しながら、ラダーペダルを少しずつ踏み込んでいった。
 その微妙な操作が、私の側のスティックやラダーペダルを通じて、私にも感じ取れた。
 
 機体の方位を示す数字が、ゆっくりと動いていく。驚いたのは、機体の傾きが25度でぴたりと維持されていたことだった。

 機体は、これ以上ないくらいに安定して飛行している。
 右側のシートに座る私の窓の外に、遠く紺色の海面が見えた。

「理恵、わかるだろう」

 九条くんが言った。

「乗客を乗せている旅客機は、ただ飛び上がったり曲がったりすればいいわけじゃない。乗客に快適な空の旅を楽しんでもらうために、パイロットは技術を尽くして機体をスムーズに操るんだ。それが、エアラインパイロットのプライドだよ」

 九条くんはそう言いながら、90度のターンを終えて、機体をゆっくりと水平に戻していった。
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