虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 フライトシミュレーターは、飛行中のちょっとした揺れも再現していて、水平飛行中も機体は小刻みに揺れている。
 飛んでいる飛行機ならではの、独特なふわふわした揺れだ。

「ライト・ターン」

 九条くんがコールした。
 私は慎重にハンドルを右に傾けた。ディスプレイの水平表示が、ゆっくりと傾いていく。
 25度で傾きが止まるように、私は傾きが15 度を超えたくらいでハンドルをゆっくり戻しながら、ラダーペダルを踏み込んでいった。

「うん、理恵。すごくうまいよ」

 九条くんが言う。

「ラダーはその調子で、もう少し踏んでもいい。機体が高度を保ちながら、円を描く様子をイメージするんだ」

 この高さでは地表が視界の遥か下になるから、機体の傾きや向きを地表の景色から感じることはできない。全て、目の前のディスプレイの数字の動きを見ながら、機体の動きをイメージすることになる。

「うん……上手だ。ラダーの角度をこのままにしておいて、方位が45度を超えたら、少しづつ舵を戻していこう」

 方位45度と言うことは、針路270度から90度への変更の、4分の3まで進んだらと言うことだろう。私は頭の中で大急ぎで図を書いて、理解した。

「理恵、肩の力を抜いて。すごく綺麗なターンだよ。窓の向こうに富士山もよく見える」

 九条くんの言葉に視線を移すと、ウィンドウの外には富士山が、白い頂上を見せながら、視界の後方に流れていくところだった。 

 機体の向きが、西から東へ、大きく円を描いて回った。方位計がぐるっと回って、270度に近付いていく。

「理恵、ありがとう。すごく綺麗なターンだった。後は僕がやるから」
 
 九条くんが声をかけてくれる。

「本当、初めてとは思えないくらい上手だったよ」 

 九条くんは細かくスティックを操作しながら、機体を巧みに操って、目指す針路に導いていく。
 私は身体の力を抜いて、ふうっと息を吐いた。

 私、旅客機を操縦した。時間にして1分にもならなかっただろうけど
 すごく、緊張したけど……。

 すごく、素敵だった。
 これがパイロットの世界なんだね、九条くん──。
 
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