虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
駿河湾上空でUターンして、私たちは再び羽田の空に戻ってきた。
「気象条件は変わらないから、着陸にも16Lを使う」
九条くんはそう言って、着陸までの飛行経路を図で示してくれた。
「反対側からは着陸できないの?」
この経路だと、工業地帯の上を飛んで、陸地で大きく左旋回しながら大回りするような形で着陸することになる。
「飛行機は離着陸の時に向かい風になるようにするんだよ。その方が翼に当たる風が速くなって、飛ぶ力が強くなる。追い風だとその分風の速さが遅くなるからね。飛ぶ力が強くなれば、離着陸のスピードも遅めで済むし、距離も短くできて安全なんだ」
九条くんは素人丸出しの私の質問に、丁寧に答えてくれる。
「羽田の風向きは変わっていないから、アプローチも同じ滑走路になる。以前は羽田は離陸便と着陸便の使用滑走路を分けて運用していたんだけど、それだと離陸便と着陸便が交差する形になって、不便で危なかったからね」
私は大急ぎで、ついさっき教わった羽田空港の滑走路の図をイメージしてみた。
おおよそ、ひし形で囲むように四本の滑走路があって、北を上に見て、右から左に流れる二辺が上からB、D滑走路。左から右に流れる二辺が上からC、A滑走路……だったっけ?
「でも、他にも同じように着陸したい飛行機がいるときは?」
「大人しく上空で旋回しながら、自分の番が来るのを待つのさ。それをさばくのが管制官の仕事だけど、みんな早く着陸したいから、時にはパイロット同士やパイロットと管制官の間でケンカになることもある」
「ケンカ……」
「ほとんど漫才みたいなやり取りになることもあるよ。あまり人には聞かせられないな」
本当に、パイロットって大変なんだなあ──。
「まあくんも、ケンカしたことがあるの?」
「危険な割り込みをする奴には注意するけど、譲れるものは譲るし、よほど無理を言われない限り管制官の指示には従うよ。大体、機長を差し置いて副操縦士がケンカを始めたら、後で機長に怒られるしね」
そして九条くんは、言った。
「父さんも、そうしてたって。急いでいる飛行機には先を譲って、管制官の指示を尊重する。父さんと一緒に飛んだことがあるパイロットたちが、教えてくれた」
私ははっとして、九条くんを見た。
正隆おじさんが亡くなってから、九条くんの口から正隆おじさんの話を聞かされるのは、これが初めてだった。