虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 フライトシミュレーターから降りると、私は九条くんの案内で、訓練施設のあちこちを見学して回った。

 そのどこに行っても九条くんは人気者で、パイロット仲間にもグラウンドスタッフにも、彼が愛されているのがよく分かった。
 私も嬉しくて、ちょっと誇らしい気持ちになったけど──。

 うっかりCAの研修施設に足を踏み入れたのは、失敗だったかもしれない。

 私たちが挨拶すると、指導役の先輩CA が私たちを引っ張るように隅に連れて行って、小声で耳打ちした。

「九条さん。婚約者の顔見せ、ありがたいけれど……」

 40近い指導役のベテランCAは、軽くこめかみに手を当てながら、

「研修中のフレッシュたちには、あなたの婚約報告は刺激が強すぎたみたい。あなたのニュースが流れてから5人が医務室に運ばれて、そのうち3 人は早退したわ」

 気がつけば、CAのタマゴたちがものすごい顔をして、私のことを睨んでいる。

 もっとも当の九条くんは、

「みんな脱出訓練で、怪我でもしたんですか?」

 なんて天然なリアクションをして、指導役のCA に一層渋い顔をさせていた。

 指導役のCAは最後には、私にこう耳打ちした。

「モテることを鼻にかけるような男は最悪だけど、自分がモテることに全く自覚がないのも考えものね。早川さん、この天然王子のお世話をよろしくお願いします」
 
 こんな時、どんな顔をすればいいんだろう……?
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