虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「まあ、驚くのも無理はないよな」
高見澤さんは、私から視線を逸らして、向かいのビルの壁面をぼんやり眺めているようだった。
「当然、疑問に思うだろう。何であの御方がそんなことを知っているのか。そして、なぜそれを九条やあんたには話さずに、俺には話したのかって」
「……」
「俺だって全てが分かっている訳じゃない。ただ、あの御方の思いは、察しているつもりだ」
高見澤さんはそう言って、マグカップのコーヒーを苦そうに啜ると、真っ直ぐに私を見た。
「俺が『ウロボロス』のリーダーだってこと、あの御方は知っている」
『ウロボロス』は高見澤さんがリーダーを務める、国際的ハッカーグループの名前だ。その恐るべき実力の一端を、私は田村部長との一件で垣間見た。
「俺が何者かを知った上で、あの御方は直接俺に連絡を取ってきたんだ」
高見澤さんは瑠美おばさんのことを、あの御方、と呼ぶ。
大胆不敵な高見澤さんがここまで畏敬する相手が、世界に何人いるのだろう。
「あの御方──ジャミーラを、あんたはどう見る? 早川さん」
ジャミーラ・スルターナ。
アラブの言葉で、『美しき女君主』
瑠美おばさんの異名だ。
「素晴らしい人です」
私は短く言った。
「私なんかの言葉では言い表せないほど」
「俺も同感だよ。あの御方は信用できる。俺みたいな稼業の人間には、相手の肩書や血筋、金の有る無しなんかより、その相手が信用できるかどうかが一番大事なんだ。その、ジャミーラが──」
高見澤さんは、一旦言葉を区切り、そして言った。
「俺に言ったんだ。息子をお願いしますと。息子が、憎しみに心を染めてしまわないように、自由な空を飛び続けられるように、どうかお力添えください、と」