虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
お昼前のオープンカフェは客の入りもそこそこで、談笑するご年輩の二人連れや、硬い表情でタブレットを操作するスーツ姿のビジネスマンと同じように、私と高見澤さんもオープンカフェの風景の一つとして、自然に溶け込んでいる。
でも高見澤さんの話す内容は、私の心を波立たせていた。
「なあ、早川さん」
高見澤さんは、少しだけ表情を緩めた。
「俺はあの御方と同じように、あんたのことも信用している。だからこうして、あの御方があんたに直接伝えなかった言葉を、今こうして、伝えている」
「私は瑠美おばさんに、信用されていないのでしょうか……?」
「早川さん。あんたがそんなふうだから、あの御方は、敢えてあんたには伝えなかったとは考えないのかい?」
「……」
「悪い意味じゃないよ。おそらくあの御方は、あんたを守りたかったんだ。九条と同じようにな。それくらい、九条の親父さんの遭難は、ヤバい話なのさ」
「教えてください、高見澤さん」
私は身を乗り出した。
「一体何があったんですか? 九条くんのお父さんは、何で帰って来れなかったんですか?」
それに答えた高見澤さんの言葉に、私は心臓が凍り付きそうになった。
「九条の親父さんは遭難したんじゃない、墜とされたんだ。不幸な偶然の結果だろうが」
景色が一瞬、止まった気がした。
「わかるだろう。これを全て知ったら、九条がどんな反応をするか。あの御方が、何を真に心配されていたか」
瑠美おばさんの『正臣を繋ぎ止めて』という言葉が、あらためて違う色彩を持って、私の耳の奥でこだました。
「九条くんは、このことを……?」
「天災や機体トラブルじゃなかったことは気が付いている。だがそれ以上は、俺が情報を小出しにして、敢えて気付かせないようにしている。紫月もそうさ」
「……」
「俺は『ウロボロス』だ、依頼人に嘘はつけない。だが情報を正しく伝えるためにタイミングを調整するのは、俺の仕事だ」
高見澤さんはそう言うと、マグカップのコーヒーを飲み干して、立ち上がった。
「ここの払いは持つよ。それとこれから、俺のことは名前で呼んでくれればいい」
そして私の肩に、軽く手を置いた。
「九条を、支えてやってくれ」
高見澤さんは軽く右手をあげて、振り返らずにオープンカフェを出て行った。