虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 フライトから帰って来た九条くんを、私は精一杯の笑顔で出迎えた。

「お疲れさま、まあくん」

「ただいま理恵、会いたかったよ」

 九条くんは私に笑顔でキスして、優しくハグしてくれる。
 
「私頑張って、まあくんの好きなお魚のお煮付け作ったんだよ」

「ありがとう、嬉しいなぁ」

 本当は、九条くんの方が私よりずっと料理上手で、私は彼の不出来な弟子みたいなものだった。
 それでも九条くんは、私の作ったものはみんな美味しいと言って、残さず綺麗に食べてくれる。

 いつか、妹の真理に言われたことがある。

「理恵。あんた男に媚を売るのが下手なら、せめてお料理の腕ぐらいなんとかしなさいよ。胃袋を掴めば、その相手は落ちたも同然だから」

 真偽不明なその話を、私は鬱陶しがって聞き流したけど、今となっては悔やまれる。
 商社のOLとして懸命に生きてきたつもりだけど、それと好きな人に愛されるということは、全く別のことだったと今更に気付かされてしまう。

 私が懸命に生きることは、所詮私自身のことにすぎなくて、その私を誰かに愛してもらうのは、私と相手の二人で紡ぐことだから。
 
 好きな人に、愛してもらう。
 九条くんを私に、繋ぎ止める。

 こんな、何でもできるスーパーマンみたいな九条くんを、どうしたら私に繋ぎ止めることができるのだろう──。

「理恵。難しい顔して、どうかしたの?」

「ううん、なんでもないよ」

 結局私が思い付いたことは、至極単純なことだった。

 夕食の片付けを終えた後、私はリビングでくつろぐ九条くんの横に座って、素直に甘えてみせた。

「あのね、まあくん。まあくんのいない間、私、寂しかったんだよ……」

 九条くんは微笑んで私にキスすると、私を軽く抱えあげて、お姫さま抱っこでベッドルームに運んでくれた。

 九条くんは私を、激しく愛してくれた。

 何度も気を失いそうになりながら、私はうわ言のように、繰り返した。

「まあくん……っ! もっと、もっと愛して……!」

 私が彼の生命を宿せば、家族を大切する彼は、何があっても私のもとに戻ってきてくれる。
 私が、九条くんの赤ちゃんを身ごもれば──。

 単純でも不純でもいい、彼を繋ぎ止めたい。九条くんを、失いたくない。

「愛して、まあくん……っ!」

 折れるほど抱き締められ、きしむほど貫かれながら、それでも私は、彼を求め続けた。
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