虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「ねえ、理恵」
フライトから戻った九条くんが、急に私に話しかけてきた。
「俺たち結婚したら、日本に住まないか?」
「……いいの?」
私の両親はまだ実家で元気にしているけれど、今後のことを考えたら、できれば近くで見守れる場所で暮らしたい。
でも、九条くんにはお仕事が──。
「俺のことなら大丈夫だよ。元々パイロットとしてなら、東京近郊に住んでいたほうが便利だから」
以前、なぜ九条くんが日本のエアラインパイロットなのにニューヨークに住んでいるのかを教えてもらったことがあるけど、実はもう一つ、後で気付いたことがあって、九条くんはお母さんの名代として、ニューヨークでのシャキール・コンツェルンの交渉窓口としての役目を果たしていた。
九条くんが急な来客を嫌うのは、プライベートを守るというより、アポイントメント持ちの相手をさばくだけで手一杯という理由があったからだ。
「シャキールの件は、俺じゃなきゃ務まらない訳じゃないし、母さんがなんとかしてくれるよ」
でも……。
「理恵。俺はできることなら、二人が出会ったあの街で暮らしたいんだ」
九条くんは、私を澄んだ目で見つめて、
「あの、優しい陽射しと空気に包まれて、春は桜並木を歩いて、夏はプールではしゃいで」
思い出を言葉に置き換えながら、
「秋は運動会でバトンを渡して、冬は霜柱を踏みながら登校して……。あの懐かしい街で、生まれてくる俺たちの子供にも、あんな楽しい思い出を作って欲しいんだ」
そう言って、微笑んでくれた。
「まあくん……」
「だから戸籍を新しく作って、二人で暮らす準備をしよう。式の前にもう一度日本に戻って、そこで戸籍を作って、婚姻届も出してしまおうよ。理恵と出会った、あの街で」