虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 J・F ・ケネディ国際空港を離陸してから14時間。私を乗せた機体は、夕暮れに染まる羽田空港のC滑走路に降り立った。

 機外カメラが、誘導灯に彩られた滑走路の『34 R』の白文字を映し出すのを見て、

「九条くんと飛んだときの、C滑走路を逆向きに使っているんだ。ということは、今は北風が吹いてるんだな」

 そんなことを、ぼんやり考えていた。

 九条くんと再会しなければ、一生知ることも無かった知識と感覚。
 フライトシミュレーターだけど、私は九条くんに手を引かれて、素晴らしいパイロットの世界を体感した。

 九条くん、今頃どの辺りを飛んでいるんだろう。

 私は左手の薬指に目を落とした。
 九条くんからもらった、ブルーダイヤのエンゲージリングとサファイアのペアリングが、薬指に並んで光っている。
 
 このペアリングのもう片方は、九条くんの左手の薬指で光っているはず。
 
 会いたいな、まあくん……。

 少しうつむいて到着ゲートをくぐった私だったけど、ゲートの先には、真夏の太陽のようなその人が待っていてくれた。

「理恵! こっちこっち!」

 紫月さんは大きく手を振ると、青いキャリーバッグを引いたままの私に駆け寄って、思い切りハグしてくれた。

 こんな気さくな人が、日本を代表する大財閥の御令嬢だなんて、本当に信じられない。
 そんな紫月さんの傍らには、銀縁の丸眼鏡を掛けた榊さんが、当然のようにたたずんでいる。

 そしてもう一人、

「先輩っ、会いたかったです!」

 明日美ちゃんも、思い切り私にハグしてきてくれた。
 山井商事で私とチームを組んでいた頃は、真面目でおとなしい感じの後輩だったのだけど、御倉商事に移って紫月さんのそばで働くうちに、影響されたのか明るさが3割増くらいになった気がする。

 明日美ちゃんが、新天地で皆に愛されながら頑張っている光景が目に浮かんで、少し沈みがちだった私も、思わず笑顔になっていた。
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