虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
私たちは紫月さんの案内で恵比寿に移動して、隠れ家のようなイタリアンバルでお食事とワインを楽しんだ。
「直人さんは先約があって、今夜は来られないそうです」
スマホを置いて、明日美ちゃんが残念そうに言った。
「いい度胸じゃない、こんな美女三人を袖にするなんて。後できっちり教育しておかないと」
そう言って黄金色にはじけるスパークリングワインのグラスを傾ける紫月さんに、
「全く仰るとおりです、紫月さま」
ノンアルコールカクテルに申し訳程度に口をつけながら、榊さんが頷いた。
この二人、ものすごくハイスペックなんだけど、たまに冗談で言っているのか本気なのか、区別がつかない時がある。
私と明日美ちゃんが困ったような笑みを浮かべてると、急に紫月さんが切り出した。
「そう言えば理恵、瑠美さんとお会いしたんですってね」
「紫月さんは、瑠美おばさんとご面識が?」
「仮にも正臣の元婚約者よ、何度もお会いしているわ」
紫月さんは九条くんの元婚約者で、私は今の婚約者。
ドロドロの険悪さになってもおかしくないのに、こんな私たちが友人でいられるなんて、本当に紫月さんは素敵な人だと思う。
「それに瑠美さんがシンガポールで事業を立ち上げる時に、私がプラント建設の資材調達をお手伝いしたから、仕事上のお付き合いもあるのよ」
「あの紫月さん、先輩。その瑠美さんって……?」
話に置いてきぼりになってしまった明日美ちゃんが、おずおずと口を挟んだ。
「ああ、ごめんね明日美」
紫月さんは笑いながら、
「瑠美さんは、理恵の旦那さまになる正臣の、お母さまよ」
さらりと説明した。
まるで紫月さん自身が、私と九条くんを結びつけてくれたような言い方に、明日美ちゃんは疑問も挟まずに「へえー」と目を丸くした。
「どんな方なんですか? 先輩のお義母さまになられる方ですよね」
明日美ちゃんが興味津々に訊いてきた。
「素晴らしい人よ。私の語彙力じゃあ、それ以上の言葉が見当たらない」
ため息混じりに話す私の後を、紫月さんが継いでくれた。
「私も全く同感。私の憧れであり、目標。いつかあの人のようになりたい、そう思わせるような御方よ」
普通の人からすれば羨望の対象でしかない紫月さんをして、そう言わしめる女性。
瑠美おばさんはきっと、この時代の女神なのだろう。