虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
紫月さんはまた、私に話しかけてきた。
「理恵。なんで瑠美さんがCAをなさっていたか、ご存知?」
いいえ、と首をふる私に、紫月さんは微笑んで、
「あの御方は東都大学で経営学を学んで、自身で事業を起こすことを志してみえたのだけど、そのためにはサービスのなんたるかを学ばなければならないと考えられて、それでCAになられたのよ」
明日美ちゃんは紫月さんの話を聞いて、
「……すごい、ですね。そんな御方が実際にいるんだなぁ」
感に堪えない様子で呟いたけど、私も全く同感だった。
でもそれで、ドバイに移ってからの瑠美おばさんの活躍に納得がいった。
もしかしたら瑠美おばさんにとっては、優しいお母さんという方が仮の姿で、凄腕の起業家で経営者という方が本来の姿だったのかも知れない。
そんな私たちに、紫月さんはこう言った。
「でも本当にすごいのは、そんな瑠美さんのハートを射止めて普通のお嫁さんにしてしまった、正臣のお父さまなのかもね」
「……」
「どんな方だったのかしら。お会いしたかったなあ」
少し酔いが回ったのか、スパークリングワインの泡を眺めながら、紫月さんはふわりと呟いた。
そんな紫月さんの横顔を、榊さんが静かな瞳で見つめている。
「もの静かな方でしたよ」
私は言った。
「口数は少ないけど、いつもにこにこしていて、フライト先で私と妹に、いっぱいおみやげを買ってきてくださいました」
「……そうか、理恵は実際にお会いしたことがあるのよね」
あらためて私を見る紫月さんに、私は微笑んで答えた。
「とにかく優しい方でした。背が高くてほっそり手脚が長くて、浅黒く日焼けして、笑うと白い歯が印象的でした。九条くんは顔はお母さま似だけれど、身体つきはお父さまに似たのだと思います」
「やっぱり、素敵な方だったのね……」
紫月さんは、九条くんのお父さん──正隆おじさんに捧げるように、スパークリングワインのグラスを傾けて、そっと目を閉じた。
そしていたずらっぽく笑って、私と明日美ちゃんに話してくれた。
「実は正臣のお父さまには恋のライバルがいて、最後まで瑠美さんのハートを争って火花を散らしたそうなのだけど、そのライバルというのが、今の大日本航空の藤堂社長だという噂なのよ」