虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
美味しいワインを片手に、楽しいお話は夜遅くまで続いた。
あれ、でもそう言えば……。
「紫月さん、榊さん。お仕事はよろしかったんですか?」
紫月さんは、不在中の仕事は榊さんに全部おまかせみたいなことを言っていなかったっけ。二人ともこちらに来てしまって、よかったのかな?
「ああ、それね」
紫月さんは意味深な笑みを見せた。
「ご心配いただき恐縮です、早川さま」
榊さんはいつものフラットな口調で、
「しかし問題はございません。『黒蜥蜴』の者に言いつけて、作業させておりますから。彼等は事務作業は不得手ですが、これも職務のうちと心得ております」
『黒蜥蜴』は、榊さんが隊長を務める御倉家の私設警護隊。その実力は軍隊の特殊部隊にも匹敵するとか。
その一騎当千の強者たちが、眉間に皺を寄せてデスクワークに忙殺されているなんて──。
『黒蜥蜴』の皆さんには申し訳ないけど、私は口に含んだ甘いロゼワインを、霧吹きのように吹き出しそうになってしまった。
そして時計が12時の鐘を打つ頃、会はお開きになった。
「なによ、まだこれからじゃないの」
「これ以上は御身体に障ります、紫月さま」
いい感じで出来上がっていた紫月さんを、榊さんは身体を支えながら車に押し込んで、何度もお辞儀しながら御倉本家の豪邸に帰っていった。
「先輩、楽しかったです。ぜひまたお声かけくださいね」
意外にアルコールに強い明日美ちゃんは、頬を桜色に染めたままちょこんとお辞儀して、交差点で自分でタクシーを拾って帰っていった。
私はもう、実家に帰るには遅すぎたので、スマホで空室を確認してから予約を入れて、JR駅近くのシティホテルのシングルルームで一夜を過ごすことにした。
服を脱いでバスルームに入って、シャワーで熱いお湯と冷たい水を交互に浴びて、酔いを覚ます。
気持ちをすっきりさせてから、私は備え付けのパジャマに着替えて、白いシーツが眩しいベッドに横になった。
そのまま、眠りに身を委ねるつもりだったのだけど──。
ふいに、お食事会での紫月さん言葉が耳をよぎった。