虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
『正臣のお父さまには恋のライバルがいて……それが今の、大日本航空の藤堂社長だという噂なのよ』
九条くんのお父さん──正隆おじさんには、敵意を抱かれるような相手がいた。
そしてその相手が今、大日本航空の社長に就いている。
直人さんは、正隆おじさんは『墜とされた』と言っていた。
誰に、どのような形で墜とされたのか、詳しくは教えてくれなかったけど。
そして、瑠美おばさんが直人さんに語った『息子が、憎しみに心を染めてしまわないように』という言葉──。
この言葉たちが不吉な音色を奏でながら、私の頭の中で絡み合い、ぐるぐる回り始めた。
九条くんはもしかしたら、ものすごく危険な空を飛んでいたのかもしれない。
いつ墜とされても、おかしくないくらいの──。
確証はない。
でもそれは、古い尖塔の鐘を乱れ打つように、私の頭の中でひび割れた音を放ち続けた。
私は跳ね起きて、貴重品ボックスを開けると、中からサファイアのペアリングを取り出した。
このリングのもう片方は、今も九条くんの左手の薬指に光っているはず。
それが二人を繋ぐ細い糸のような気がして、私はブルーダイヤのエンゲージリングと一緒に、サファイアのペアリングを左手の薬指にはめた。
そして、ブルーダイヤのペンダントを手のひらに置いた。
宝石には、邪気を払う効果があると聞いたことがある。この宝石たちが、自分を後回しにして私を守ろうとしていてくれた、九条くんの優しさのような気がして、胸が苦しくなってきた。
とても眠れない。
私はスマホをタップして、九条くんにメールを送った。
『まあくん、今どこにいるの? お話したいな』
フライト中なのか、いつまで経っても既読にならなかった。
私は祈るように、淡く光るスマホの画面を見つめ続けていた。