虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 眩しさを感じて目を開けると、カーテンの隙間から白い光が漏れていた。

 はっとして探ると、スマホは右手の中にあって、待ち受け画面には10時16分の時刻表示が光っていた。

 寝落ちしてしまった。
 そして、九条くんからのメールは来ていない。私のメールに既読も付いていない。

 きっとフライト中なんだ。
 そう自分に言い聞かせても、涙が溢れて、スマホの画面が滲んで見えなくなってしまう。

 どこにいるの? まあくん……。

 はだけたパジャマの前を合わせると、のろのろと起き上がって、テレビのリモコンに手を伸ばした。

 もし飛行機の事故がどこかで発生していれば、必ずニュースに流れているはず。
 モニターに画像が映し出される瞬間、反射的に目を閉じてしまった。
 呼吸を整えながら、おそるおそる目を開けると、モニターには朝の情報番組で、中堅どころのお笑い芸人が的外れなコメントで、スタジオの笑いをさらっている様子が流れていた。

 いつもの朝の、変わり映えのしないプログラム。

 私は大きく息を吐き出した。

 チェックアウトの時間が近付いていたけど、とても動き出す気力が湧かない。

 私はフロントに電話をかけて、デイリーユースで夕方まで滞在できるか尋ねてみた。
 幸いこの部屋に次の予約は入っていなくて、午後5時までなら時間ごとの延長料金を支払えば部屋にいて構わないと説明された。

「5時を過ぎますと、本日分の宿泊料金が加算されますのでご了承ください」

 フロントの丁寧な説明に、ありがとうと礼を言うと、私はパジャマを乱暴に脱いで、下着姿でバスルームに入った。

 シャワーを浴びて、このよどんだ気持ちを切り替えたい。
 
 ぬるめのお湯で身体を馴染ませてから、昨夜のように熱いお湯と冷たい水を浴びて、身体と心を目覚めさせた。

 そしてバスルームを出て、ドレッサーの前に腰掛けて、髪にドライヤーを当てた。

 無理にでも何かしていないと、また涙が溢れそうになってしまう。
 私がぼんやりと髪を乾かしていると、急に手元に置いたスマホが光った。
 マナーモードのままだったスマホが小刻みに震えて、低い唸り声を上げている。

 ドライヤーを放り出してスマホをタップすると──、

『理恵、ごめん。今ロサンゼルスに着いたところ。何かあったの?』

 九条くんの元気な声が流れてきた。

 私は、まあくん、と叫んで、そのまま声を上げて泣き出してしまった。
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