虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
運航管理センターの中は騒然としていた。
モニターを睨みながら早口で誰かと話している人。
ペーパーを叩きながら、激しい調子でやり取りしているグループ。
厳しい顔で、キーボードに指を走らせている女性スタッフ……。
紫月さんはその人々の渦をすり抜けるように、チーフと思しき男性のデスクに向かった。
「風間さん、今の状況は?」
「ああ、紫月さん」風間と呼ばれたその男性は、私を見て「そちらの女性は?」と訊いてきた。
「早川理恵さん。正臣の今の婚約者よ」
「九条君の……」
「風間さん。彼女なら大丈夫だから、状況を説明して」
紫月さんに促されて風間さんは、ためらいがちに話し始めた。
「今からちょうど40分ほど前ですが、九条君が乗るGL7028便がメーデー……緊急事態宣言を発信しました」
血の気が引くのが、自分でもわかった。
「詳細は不明ですが、通常航路を飛行中の7028便に、何かがぶつかるか、掠めたようです」
「何かって、あなた……!」
紫月さんが咳き込むように、
「高度1万メートルを飛んでいて、一体何がぶつかるっていうのよっ?!」
「我々にも不明です。ただ、そのために……」
風間さんは目を伏せながら、
「機体はコクピット部分が破損して、急減圧が発生しました。パイロット両名も負傷して──」
私の顔をちらりと見て、言葉を継いだ。
「機長の原田さんは頭部を負傷して意識不明。機体は九条君の操縦で飛行を続けていますが、彼もかなり負傷していて、機体の姿勢を保つのに苦心しているようです」
「そんな状態で羽田まで辿り着けるの?!」
紫月さんもかん高い声になった。
「ちょうど事故発生地点がハワイと羽田の中間点を超えたあたりで、我々も九条君に緊急着陸地のミッドウェイ島に向かうか訊ねたのですが、彼は破損した機体で大きなターンをするのは危険だと、そのまま羽田に向かうことを希望しました」