虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
風間さんは一旦言葉を区切り、また説明を始めた。
「率直に言って、とても危険な状態です。機体はコクピット部分へのダメージで外部センサー類が破壊されたらしく、自動操縦やアシスト機能がほぼ全て使えない状態です。加えて、機長は意識不明、副操縦士は負傷している」
「せめて怪我の処置くらいできないの?!」
「客室とコクピットの連絡ドアが故障して、中に入れないのです」
風間さんが、目を伏せた。
「あの機体は緊急時の交代要員も兼ねて、移動中のパイロットを客室に二人乗せていたのですが、誰も中に入れないのでは……」
「何か……いいニュースはないの?」
紫月さんが、苛立って言った。
「幸い、操縦系統に異常は見られません。エンジントラブルの兆候も。あの機体の状態は全てこちらでモニターできますから。ただ、問題は……」
「まだ何かあるの?!」
「九条君の傷の具合です。頭を切ってその血が目に入って、左目がほとんど見えないそうです」
思わず息を呑んだ。
なのに、これで全てではなかった。
「それに破片に斬られたのか、左手に力が入らないと。今あの機体はアシスト機能が失われていて、操縦にはかなりの力が要りますから」
左手──右の副操縦士席からだと、エンジンパワーを制御する、スラストレバーを操作する手になる。
頭から血を流しながら、歯を食いしばって機体を操作する九条くんの姿が、瞼の裏に浮かんだ。
「それとコクピット内の温度も。今機体は高度3,000メートルを飛行していますが、穴が開いたコクピット内の温度は10度を下回っているはずです。低温に長時間さらされて、パイロットの体力が……」
「もっと高度を下げるように指示しなさいよ!」
「高度を下げれば下げるほど空気抵抗が増して、燃料消費が増えます。羽田への帰路を考えると、これがぎりぎりの高度なのです。それにあの機体は今、安定性を欠いていますから、これ以上高度を下げるのは危険です」