虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
すると突然、混乱を極めていた運航管理センターの一角がどよめいた。
あちこちのスタッフから、「社長」「社長」と、挨拶とも呟きともつかない声が漏れている。
視線を巡らすと、重厚な雰囲気をまとった大柄な紳士と、その脇には──。
「藤堂社長! それに直人と明日美まで……!!」
紫月さんが、思わず声を上げていた。
「紫月さん、申し訳ないが挨拶は後で」
藤堂社長は軽く一礼すると、私に向き直った。
「早川理恵さんですね。高見澤君から事情はうかがいました」
これが、藤堂社長。
若い頃、九条くんのお父さん──正隆おじさんと、瑠美おばさんを巡ってライバルだった人。
でも悪い人には見えない。柔和そうな瞳に、真摯な光が宿っている。
そして──。
「紫月、理恵、詮索は後だ」
直人さんが口を開いた。
「まずは俺たちにできることをしよう。ここの責任者は?」
「私です」と、風間さんが名乗り出た。
直人さんは風間さんの胸につけたネームプレートに目を落として、
「では風間さん。羽田の管制に許可をとって、ここでパイロットと通話できるようにしてもらえませんか? それと羽田の管制から国交省の東京航空局経由で、自衛隊と海上保安庁、それに消防庁に救難要請を」
部外者からの矢継ぎ早の指示に風間さんが戸惑っていると、藤堂社長が、
「風間君、彼の指示に従おう」
そう言って、迅速な対応を促した。
風間さんは少し下を向いたが、すぐに振り払うように顔を上げ、言った。
「わかりました。ここでパイロットと平文で直接通話する許可を羽田管制に取り、次いで羽田管制から東京航空局経由で、自衛隊及び海上保安庁、消防庁に救難要請をいたします」
そして数人のとスタッフと手分けして、あちこちに電話をかけ始めた。
その傍らで、紫月さんが明日美ちゃんに話しかけた。
「明日美、私は会社で留守番をお願いしたはずよね」
「ごめんなさい、紫月さん」
明日美ちゃんは、真っ直ぐな顔で答えた。
「でも九条さんが大変だって聞いて、じっとしていられなくて……。直人さんにお願いして、連れて来てもらったんです。私にも何か、お手伝いさせてください」
「本当は、あなたを叱らなければならないのだけれど」
紫月さんは、言った。
「でも──ありがとう、明日美。あなたが来てくれて心強いわ」
そして、オペレーターの声が響き渡った。
「羽田管制の許可が出ました、回線繋がります」
スピーカーからガリガリという雑音に混じって、嵐の中ような風音が室内に響き渡ったった。