虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
私は、小刻みに震える紫月さんの肩に手を置いたまま、榊さんに声をかけた。
「榊さん、紫月さんをお願いします」
そして榊さんの手を引いて、紫月さんの背中に回した。
私はそっと押し出すように、紫月さんの身体を、榊さんに預けた。
紫月さんは拒まずに、榊さんの腕の中で、顔を伏せている。
紫月さんを守るように抱いたまま、榊さんが口を開いた。
「風間さま。私も九条さまに話し掛けて、よろしいですか?」
風間さんは頷いて、榊さんにマイクを回した。
「九条さま、榊です。聞こえますか」
『榊、さん……』
返ってくる九条くんの声が、弱々しい。
「九条さま、お願いでございます。どうか帰って来てくださいませ。あなたさまがいなくなられては、紫月さまが悲しまれます」
『……』
「紫月さまは、今でもあなたさまのことを想っておいでです。もし九条さまが失われてしまうと、紫月さまが受けられる心の痛みを、私では癒せないのです」
いつもフラットな口調の榊さんが、こんなにも感情を顕にするなんて……。
「私では癒せないのです、九条さま。どうか、帰って来てくださいませ」
榊さんはもう一度同じ言葉を繰り返して、自分の腕の中の紫月さんに視線を落とすと、風間さんに一礼して、マイクを返した。
「私にも、しゃべらせてください」
明日美ちゃんはそう言って、風間さんに進み出た。
そしてマイクを受け取ると、口を開いた。
「九条さん、篠原です。私はあなたに助けていただきました。なのに今苦しんでいるあなたを助けることもせずに、お願いすることしかできません」
『……』
「お願いです、帰ってきてください、九条さん。あなたがいなくなると、紫月さんと理恵先輩が──私の大切な人二人が、苦しんでしまいます」
『……』
九条くんは言葉を返さずに、みんなの言葉を聞いている。彼の息遣いと、コクピットに吹き込む風音だけが、スピーカーから流れてくる。
「お願いです、帰ってきてください。紫月さんにとって、あなたは15年も想い続けた愛そのもので、理恵先輩にとって、あなたは全てを奪われたあとにやっと巡り会えた、希望の光なんです。それが、失われてしまったら──」
明日美ちゃんは声を震わせると、涙を拭って、言った。
「お願いです、九条さん。私もまだ、あなたにお礼を言っていないのに……。私たちの前から、いなくならないで……。お願い……」