虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
着陸
藤堂社長は風間さんに後を託すと、私たちを同じフロアの応接室に案内した。
中にはソファとテーブルが並んでいて、皆がそれぞれの場所に腰掛けた。
スタッフが差し入れてくれたペットボトルを、明日美ちゃんが機敏に受け取ってみんなに配ってくれる。
ペットボトルの紅茶で一息ついてから、紫月さんが口を開いた。
「そろそろ説明してくれてもいいんじゃない?」
そう言いながら直人さんを見て、
「なんであなたがここにいるの、直人? しかも藤堂社長と一緒に」
紫月さんの視線を受けながら、直人さんは表情を変えずに、言った。
「20年前と同じことが、起こりそうな予兆があった」
言葉の向こうで、藤堂社長がうつむき加減に息を吐いた。
「直人、あなたこうなることが判っていたの?!」
「危険な兆候はあったが、まさかここまでそっくり再現されるとは思わなかった。最初からこうなることが判っていれば、小細工してでもこの便を欠航させていたさ」
私も口を開いた。
「教えて下さい直人さん。一体何がおこったんですか?」
「詳しい種明かしは、九条が戻るまで待ってくれないか」
「では質問を変えます。藤堂社長に会われて、何をお話しされていたんですか?」
直人さんは私の目をじっと見詰めると、言った。
「藤堂社長は、20年前に起こったことを全てご覧になっていた。それを、問いただしていたんだ」
絶句する私たちの視線を、藤堂社長は沈痛な面持ちで受け止めていた。
そして何かを吐き出すように、言った。
「私は卑怯者だ。社長などというきらびやかな席には、ふさわしくない人間なんだ」
と、その時だった。
荒々しく足音が近付いて来て、応接室のドアが乱暴に開かれた。
「何をなさっているんですか、社長?!」
現れたのは、50半ばの額の禿げ上がった小太りの男だった。グレイの高級そうなスーツに身を包んでいるが、悲しくなるほど似合っていない。
「部外者に何を話されるつもりですか、藤堂社長?!」
突然の乱入者に、直人さんが冷ややかに言った。
「こちらをどうこう言う前に、自分のマナーを顧みたらどうだ、嶋田さん? 大日本航空の重役は、ドアを開ける前にノックの一つもしないのか?」
「な、なんだお前は」
「ただの探偵だよ。でもここには、あんたの会社の社長も、御倉グループの御令嬢もいるんだぜ。あんたどうして、そんなに鼻息荒くしていられるんだ?」