虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
藤堂社長が、無礼な乱入者に向き直った。
「口を慎み給え嶋田君。この方々は私の客だ」
「あなたこそ部外者に秘密を漏らして、ただで済むと思っているのですか?」
その言葉に、紫月さんが立ち上がった。
「先ほどから部外者だのなんだの、失礼だとは思わないの?」
そして嶋田と呼ばれた男を睨みつけて、
「御倉家は大日本航空の大株主でもあるのよ。なぜそんな態度が取れるのかしら」
だが嶋田は、紫月さんの言葉を態度ではねのけた。
「ふん。大日本航空の筆頭株主は日本国だ、御倉などではない」
そしてよせばいいのに、紫月さんを挑発した。
「御倉の孫娘だかなんだか知らないが、誰もがお前に頭を下げると思ったら大間違いだ。思い上がるな、小娘──」
哀れな嶋田は、自分で自分の死刑執行書にサインしてしまったようなものだった。
この部屋には榊さんがいる。
たちまち嶋田は、背後から榊さんにたるんだ首を掴まれ、高く吊るされてしまった。
「紫月さまにこれ以上の無礼は許さん」
嶋田は宙吊りになった豚のように、短い手足をばたつかせて、喚いた。
「はっ、離せっ! 貴様、俺を誰だと──!」
「お前が誰であろうと関係ない」
榊さんの声は、氷のように冷たかった。
「紫月さまに仇なす者は、全て叩き潰す」
榊さんは嶋田を吊るしたままドアまで歩き、片手でドアを開けると石投げでもするように、嶋田を廊下の突き当たりの壁まで放り投げた。
嶋田は盛大に壁に叩き付けられ、ずるずる滑り落ちて、そのまま廊下に大の字になった。
藤堂社長は溜息混じりにその姿を見送ったあと、榊さんがドアを閉めるのを待って、私たちに頭を下げた。
「お見苦しいところをお見せしました。あの男は嶋田と言って、我が社の常務で人事担当役員を兼ねております」
「少々、社員教育──というより、役員のマナー教育に問題があるようですね、藤堂社長」
皮肉っぽく言う紫月さんを、直人さんが諭した。
「そう言うな紫月。大日本航空は元が半官半民の国策会社だったから、未だにあの手の人物が社内に居座っているんだ」
「じゃあ、あの男のバックは……?」
「お前の大嫌いな、あの御仁だよ」
「み、三橋! あの守銭奴!!」
顔を真っ赤にする紫月さんに、明日美ちゃんがおずおずと訊ねた。
「紫月さん。誰なんですか、その、三橋って……?」
「国土交通相の三橋正治よ! 疑惑と汚職のデパートみたいな男!!」
紫月さんが吐き捨てた。