虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
夏休みに入ってすぐの、七月の末だったと思う。
九条くんと正隆おじさんの自転車に、ペンキがかけられた。
二台寄り添うように立て掛けてあった自転車に、誰かがペンキをぶちまけた。
フレームやサドルには、酷いいたずら書きまでされていた。
『ヘタクソ』『ひとごろし』──。
見つけたのは私だった。
元気のない九条くんを励ましたくて、お父さんに売り物のスイカを分けてもらって、九条くんの家に届けに行ったところだった。
私は悲鳴をあげて、ビニール袋に提げたスイカを落としてしまった。
アスファルトに叩きつけられたスイカは粉々に砕けて、赤い果汁を撒き散らした。
私の悲鳴で外に出てきた九条くんは、変わり果てた自転車を見て、しばらく無言で立ち尽くしていた。
「まあくん……」
泣きべそをかく私に、九条くん何も言わずに家の中に戻って、バケツと雑巾を持ってきた。
「大丈夫、消すから。理恵は家に戻って」
「瑠美おばさんは?」
「母さん、具合が悪くて横になってるんだ。大丈夫、僕一人でなんとかするから」
九条くんはそう言うと、濡れた雑巾で生乾きのペンキをごしごしこすり始めた。
生乾きのペンキは落ちるどころか、自転車のフレームにべっとりとへばり付いて、拡がっていった。