虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「藤堂社長は、その三橋たちに脅されていたんだ。嶋田常務は、三橋たちから送り込まれた監視役さ」
直人さんの言葉を、藤堂社長は悔恨の入り混じった表情で受け止めている。
そんな藤堂社長に、私は声をかけた。
「藤堂社長、私には政治の話は分かりません。でも、教えていただけませんか?」
そして藤堂社長を、真っ直ぐ見つめた。
「20年前、九条くんのお父さんは、なぜ帰って来れなかったのですか? そして今、九条くんの身に何が起こったのですか?」
「九条は……」
藤堂社長が言いかけたその時、テーブルの上のインターホンが鳴った。
藤堂社長がスピーカースイッチを押すと、流れてきたのは風間さんの声だった。
『社長、風間です。自衛隊の戦闘機が7028便と合流しました。進路誘導を始めます、こちらにお戻りください』
藤堂社長は軽く息を吐き出すと、私たちに向き直った。
「早川さん、皆さん。真相は全てお話します。でも今は、7028便の帰還を支援することを優先させていただけませんか」
「……」
「私は九条に約束しました。帰って来たら、全て話すと。その約束を違えるつもりはありません」
私も紫月さんも、ゆっくりと頷いた。
自衛隊の戦闘機と合流して、九条くんの機体が洋上で迷子になる恐れはなくなった。
九条くんはそれまで、壊れたコクピットで懸命に操縦を続けて、たった一人であちこちからの誘導電波を拾いながら、傷付いた身体で自動操縦に頼らずに、機体の針路を保ってきた。
自衛隊機が先導についてくれれば、それだけ九条くんの負担が軽くなる。
あとは……信じて祈るしかない。
「幸い、羽田の気象状況は落ち着いています」
風間さんが口を開いた。
「7028便は燃料ギリギリで羽田に滑り込んできます、着陸をやり直すだけの余裕は無いでしょう。燃料だけでなく、機体もパイロットも、限界です」
私たちは、羽田空港の管制官と九条くんが交わすやり取りをモニターしながら、ひたすら彼の無事を祈り続けた。
そして、オペレーターが叫んだ。
「7028便、大島上空を通過。羽田へのアプローチに入ります!」
羽田の空は、陽が黒い地平線を焦がしながら落ちかかって、音もなく夜の帳に包まれようとしていた。