虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 羽田空港は厳戒体制だった。

 この時間帯の発着便は、運航を取り止めたり、行き先を変更して茨城や成田に向かった。

 羽田の上空には、消防庁や海上保安庁の救難ヘリコプターがホバリングしていて、駐機場にも空港の消防隊が、横に並んで赤色灯を明滅させてる。
 黒い海面にも、消防と海保の救難艇がサーチライトを点けて、不測の事態に備えている。
 一般の乗客たちは、ターミナルの外へ退避が指示された。
 
 そして南の方角から、自衛隊の戦闘機2機に両脇を守られたその機体が、暮れなずむ空に翼端灯を明滅させながら、近付いてきた。

『キャプチャード』

 九条くんのコールがスピーカーから流れてくる。
 縦のグライドスロープと横のローカライザー、二本の電波の帯に導かれて、7028便が羽田に舞い降りてくる。

 そして、

『フラップ・ダウン』

 九条くんの声に合わせるように、風間さんが戦闘機のパイロットに声をかけた。

「桧山一尉、7028便のフラップとギアが降りているか、視認してください」

『507桧山、了解』

 7028便を左右から守るように飛んでいる2機の戦闘機のうちの右側の機体が、少し高度を下げた。

『ギア・ダウン』

 九条くんの声が響く。
 そして桧山一尉の声がスピーカーから流れてきた。

『507桧山、7028便のフラップとギアが降りていることを確認しました。所定位置でホールドされています』

 運航管理室に歓声が沸き起こった。

『九条さん、我々はここでお別れいたします。ご幸運を』

 群青に彩られた2機の戦闘機は、大きく翼を揺らすと、オレンジの炎を曳きながら急上昇して、北東の方角へ去って行った。
 
『ありがとうございました、桧山一尉』

 そして九条くんは、高度の読み上げを始めた。
 私がフライトシミュレーターで着陸したときは、機械の合成音が自動で高度の読み上げをしてくれた。 
 今の7028便は、その機能が失われているのかも知れない。

『サウザンド……』

 高度1,000フィート、地上まで300メートル。
 そして九条くんが、続けてコールした。

『ランウェイ・インサイト』

 7028便の針路の先に、黒い海上に眩しい誘導灯に彩られた、羽田の滑走路が浮かび上がっていた。

 と、その時だった。
 九条くんが声を漏らした。何かに驚いたような感じだった。
 慌てて風間さんが声をかける。

「九条君、大丈夫か?!」

『……なんでも、ありません』

 九条くんはそう答えると、さらにコールした。

『ファイブハンドレッド……』
 
 高度500フィート、あと150メートル。
 
 運航管理室のガラス窓からも、着陸態勢に入る7028便の姿が、今にも手に届きそうな近さで見えている。

 居合わせた全員が、ただひたすら、無事に着陸することを祈っていた。
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