虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 微かな光だった。
 ほんの少し、瞼の上を光がよぎって、その眩しさに私は目を覚ました。

 目を開けると、白い天井が目に入った。 
 そして白い壁と、白いカーテン。
 自分が病院のベッドに寝かされていると気付くのに、20秒ほどかかった。

 左手には点滴のチューブが伸びていて、輸液パックから薬液の滴が、水時計が時を刻むように落ちている。

 私は右手を伸ばして、少しカーテンを引いた。
 
 はっとした。
 カーテンの向こうにはもう一つベッドがあって、私と同じように、誰かが点滴のチューブに繋がれていた。

 身体を起こして、カーテンを開いた。

 そのベッドの患者は、顔の左半分を包帯で覆われていた。そして眠っているのか、胸のあたりが微かに上下していた。

「まあ……くん……」

 私はゆっくり立ち上がると、自分の点滴棒を手元に引き寄せ、九条くんのベッドサイドにひざまずいた。

 九条くんは左腕を肩からギプスで固定されていて、直角に曲げた肘の先が胸の上で、呼吸と一緒に上下していた。
 私は手を伸ばして、眠り続ける九条くんの左手に、自分の左手を重ねた。
 九条くんの左手の、サファイアのペアリングと、私のブルーダイヤのエンゲージリングが触れ合って、かちりと音を立てた。

 九条くんの睫毛が、微かに動いた。
 瞼が薄く開いて、黒い瞳がゆっくり巡って、そして私を見た。

「理恵……」

「まあくん……」

 涙は出ない。
 でも苦しくなるほど、胸が熱い。

「帰ってきたよ、理恵……」

 包帯で覆われていない右半分の顔に、九条くんはいつもの優しい笑みを浮かべて、もう一度、言った。
 
「ただいま、理恵……。帰ってきたよ」

 私は九条くんに顔を近付けて、唇に軽くキスすると、そっと囁いた。

「お帰りなさい、まあくん」

 そしてうっすら汗ばんだ彼の額を、指先でゆっくりとなぞった。
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