虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
深層
藤堂社長が九条くんの病室を訪ねたのは、それから一週間後のことだった。
「療養中のところ、お騒がせして申し訳ない。どうか、楽にしていてほしい」
ベッドを起こして出迎えようとする九条くんにそう声をかけて、藤堂社長はベッドサイドの折りたたみ椅子に腰掛けた。
部屋には、紫月さん、榊さんに、直人さんと明日美ちゃんも来ている。
私は少し気を失っていただけで、本当は一日点滴を打って退院だったのだけど、九条くんのお世話も兼ねて、あれからこの病室でずっと彼と過ごしている。
紫月さんが口を開いた。
「藤堂社長。この病院は御倉家が建てたもので、スタッフもセキュリティも万全ですから、そちらのお気遣いは無用です。もちろん私たちも、秘密は厳守するとお約束いたします」
この病院は御倉家の寄附で設立されたそうで、日本有数の規模と医療技術を誇る、いわば御倉家のお抱え病院だった。
気を失った私と、負傷した九条くんを一緒にこの病院に収容してくれたのは、紫月さんのはからいだった。
「それにしても、九条」
藤堂社長が、九条くんを見つめて、
「その身体で、よく機体と乗客を羽田まで送り届けてくれた。あらためて、礼を言わせてほしい」
深々と頭を下げた。
「社長、どうか頭を上げてください。パイロットとして当然ことをしただけです」
恐縮する九条くんに、直人さんが声をかけた。
「いや、なかなかのものだったぜ、あの着陸は。もっと誇っていいんじゃないか?」
あの日、羽田空港のD滑走路に着陸した九条くんの機体は、逆噴射装置の故障で行き足が止まらなかった。
滑走路の半ばを超えて奇跡的に逆噴射装置は作動したけど、そのままでは滑走路で止まりきれずに、海に転落するのは必至だった。
九条くんはその時、反射的にフットレバーを片方だけ目一杯踏み込んで、いわば急ハンドルをかけた。
車が高速道路で急ハンドルを切るようなもので、明らかな危険行為なのだけど、九条くんは敢えて危険な操作をすることで、わざと前輪の主脚を折ったのだ。
前輪の主脚が折れて、前のめりに胴体着陸する形になった機体は、その摩擦でかろうじて滑走路上で停止することができた。
私が聞いた轟音と、目に映った火花は、その胴体着陸のときのものだった。