虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「あれは20年前、桜も散って新緑に移り変わる季節だった。私と九条──君の父親は、共に大日本航空のパイロットとして切磋琢磨する間柄だった」
藤堂社長は、瞑想するように目を閉じて、一語一語淀みなく、ゆっくりと話した。
「私と九条は同い年で、機長昇格も同時だった。周囲からはライバル同士などと目されていたが、私が彼に敵わないことは、誰よりも私自身が知っていた」
室内の皆が、耳を澄まして藤堂社長の言葉を聞いている。エアコンのファンの音が、低く響いていた。
「私の父は三友銀行の重役で、そのせいかいろいろなしがらみもあった。信州の農家の出で、自由に空を飛ぶ九条が羨ましくもあった。ちょうどその頃──」
大日本航空は新型機導入に伴い、航空機関士の配置転換問題に揺れていた。
それまでの機体は、機長、副操縦士の他に、航空機関士を乗務させて飛んでいた。
航空機関士はフライト中の機体の、エンジンやさまざまな機器の監視や調整を行う職種だったが、次第にそれはコンピューターにとって代わられて、最新機種では航空機関士が要らない、2名乗務の機体が生み出されていた。
それに伴い、シートを失った航空機関士の処遇をどうするかで、世界中の航空会社が頭を悩ませていた。
「私も九条もパイロット組合の場で、いろいろ知恵を絞ったのだが」
航空機関士に機体の操縦資格はなくて、彼等が操縦席に座るには、パイロットへの転換試験を受けなければならなかった。
だが──。
「中には航空機関士一筋のベテランもいて、彼等は年齢的にもパイロットの適性は低くかった。転換試験を立て続けに落ちて、前途を悲観して退職してしまう人もいた」
「あの……社長」
話を聞いていた紫月さんが、ためらいがちに口を開いた。
「社長と正臣のお父さまが、その問題で頭を悩ませていたのは分かりました。でもそれと正臣のお父さまの遭難と、どのような繋がりが……?」
「黙って聞けよ、紫月」
直人さんが言った。
「この航空機関士の配置転換をネタに、藤堂社長は三橋たちに口を封じられて来たんだ」