虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
九条くんがこすればこするほど、ペンキは醜く拡がっていく。それでも九条くんは、こするのをやめない。
そして私は、九条くんが漏らした言葉を、聞いてしまった。
「父さんは、ヘタクソじゃないっ……。ひとごろしなんかじゃ、ないっ……」
九条くんは、ぽろぽろ涙をこぼしながら、歯を食いしばってペンキをこすっていた。
私も、泣きたかった。
でも懸命に戦う九条くんの姿を見て、涙を拭うと、私も自分の家に向けて駆け出した。
お父さんが日曜大工で、ペンキを溶剤に溶かしながら塗っていたのを思い出していた。
あれなら──。
家に戻って、納屋で溶剤の缶を見つけると、私はそれを両手で持って、九条くんの家に戻ろうとした。
走って行きたかったけど、子供の力では持ち上げるのも大変で、気をつけなければ転んでしまいそうだった。
小分けにしたり、台車に載せて運ぶなんて知恵は、小学生の私には無理だった。
何度も転びそうになって、こぼれた溶剤でワンピースの裾をびしょびしょにしながら、それでもなんとか、九条くんの家に戻ってこれた。
「まあくん、これを使って。これならペンキが落ちるよ」
「理恵……」
「私も手伝う」
私は納屋から持ってきたボロ雑巾に溶剤を浸すと、九条くんに並んで、自転車にかけられたペンキをこすり始めた。