虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「その日、富永は朝から落ち着かない様子だった。しきりに空模様を気にしていて、積載トラブルで出発が遅れることを知ると酷く神経質になって、グランドスタッフを悪しざまに罵ったりした」
「……」
「そんな富永を宥めすかしながら、私はホノルルを離陸した。しかし4時間近く飛行して、雲海の端に陽が差し始める頃、私たちは九条機に追い付かれた。そうなってからの富永の慌てぶりは異常で──」
藤堂社長は軽く溜息をつき、また語り出した。
「絶対に抜かれないようにしてください、などと言い出すから、私も癇癪を起こして、ならば自動操縦をカットするから、君が好きに操縦したまえと言い返してしまった。コクピット内のコミュニケーションは最悪だったよ。そんな時だった──」
藤堂社長は軽く目を閉じ、そして、語った。
「突然、計器類が異常な反応を示し始めた。無線もノイズが入って、すぐ後ろの九条との会話もできなくなった。そして空全体が揺れるような、衝撃波を感じた」
「……」
「私は反射的に操縦桿を倒し、緊急降下を始めた。私には見当がついたんだ、何かが降ってくる、と」
「何か、とは……?」
紫月さんの問いかけに、藤堂社長が返した言葉は、驚くべきものだった。
「隕石だ。以前、20キロ先を隕石が落ちて行くのに出くわしたパイロットと話したことがあって、その時に聞いた状況とそっくりだったんだ」
全員が息を呑んだ。
「フライトでは高度1万メートル以上を飛行するが、その高さでは空気抵抗が少ない反面、舵の効きも悪くて回避機動には適さない。舵の効きが回復する高度まで降下して、減速しながら舵を切るしかない。管制の許可を取る余裕など無かったし、そもそも無線は通じなかった」
「……」
「ただ、旅客機の降下速度と隕石の落下速度は比べものにならない。降下中に後ろに付かれたら回避のしようがない。あの降下中の十数秒は、人生で一番長い十数秒だった」
話を聞いていた九条くんが、頷きながら口を開いた。
「僕が遭遇した状況も全く同じでした。機器が異常をきたして、無線が通じなくなって、異様な衝撃波が走って──。あれは、隕石が電離層や大気圏を突き破ってきた影響だったんですね」
藤堂社長は、黙って頷いた。