虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「社長、教えて下さい」
九条くんは、言った。
「その時、父の機体はどのような状況だったんですか?」
藤堂社長は九条くんの顔をじっと見つめた後、再び語り始めた。
「私は高度6千メートルまで降りて、そこから機首上げしつつ右旋回に入った。一歩間違えれば錐揉みしかねない危険な操作だったが、生き延びるために必死だった。そんな緊急回避中のコクピットの窓から──」
藤堂社長は一瞬目を閉じ、そして見開いた。
「遥か雲海の先に、私と同じように緊急降下している九条の機体が見えた。それだけじゃない、九条は機体をひねりながら急降下して、しかもぴたりと上昇に転じて、白く輝きながら落ちて行く隕石を躱しきっていた。あの大型機であんな機動ができたのは、世界中でも九条ただ一人だっただろう」
「……」
「九条は上昇しつつ左旋回に転じた。だがその先に、遅れて落ちてきた隕石の破片が……」
藤堂社長は膝の上に置いた両手を、固く握り締めた。
「あの時、上昇に転じた九条の機体の輝きが、今も瞼の裏に焼きついて離れない。だが──ほんの一瞬、ほんの一瞬で、九条機は粉々に砕け散ってしまった。私には……どうすることもできなかった」
唇を噛みしめる藤堂社長を見つめながら、九条くんは自由に動く右手を固く握り締めていた。
私は何も言わずに、九条くんの右手に自分の左手を、そっと重ねた。
藤堂社長は、低く嗚咽を漏らすと、また語り始めた。
「危険が去った後も、私はしばらく茫然としたまま、高度5千メートルを水平飛行していた。すると急に、航空機関士の中村さんが声を上げた。何をするんだ、と」
「……」
「慌てて振り向くと、副操縦士の富永が、スイッチパネルのサーキットブレーカーを引き抜いて、手に握っていた。機体は電子機器が一斉にダウンして、とても操縦を続けられる状態ではなくなっていた」
「な、なんですって?!」
目を剥く紫月さんに、直人さんが冷え切った声を重ねた。
「事故の隠蔽さ。サーキットブレーカーを引き抜けば、ボイスレコーダーもフライトデータレコーダーも機能を停止する。富永は藤堂社長や中村機関士が緊急回避操作に気を取られているうちに、まんまと事故の証拠を消し去ったんだ」