虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「それは本当か、高見澤君?!」
声を上ずらせる藤堂社長に、
「こんな時までジョーク言うほど、俺は悪趣味じゃないですよ」
直人さんはそう返して、皆に向き直った。
「ここから先の話はヤバ過ぎるから、ちょっと昔話風に語らせてくれ」
そして、語り始めた。
「20年ほど昔、アジアの片隅に、乱暴な王様が住んでいました」
「何よ直人、ジョークは言わないんじゃないの?」
紫月さんの突っ込みに、
「いいから黙って聞いてろって」
直人さんは舌打ちしながら、『昔話』を続けた。
「乱暴な王様は、何か気に入らないことがあるたびに空に向けてミサイルを打ち上げて、周囲の国々を困らせていました」
「直人さん、それって……!」
話の真意を悟った明日美ちゃんに、直人さんは口の前に指を一本立てて、『昔話』の続きを話した。
「王様の打ち上げるミサイルは、次第に巧妙に、たちが悪くなって、最後には普段は衛星のふりをして宇宙を回って、自分が狙われるといきなり地上に向けて落ちて来るような、意地の悪いものまで現れました」
「なんてことなの……」
紫月さんが、かすれ声で呟いた。
直人さんの、耳を疑うような『昔話』は続いている。
「ある日、その『衛星』の真下を日本の旅客機が横切りました。それを自分が狙われていると勘違いしたミサイルは、自分を守るための子分のミサイルを、旅客機に向けて放ちました。──酷い話です」
全員が息を呑んだ。
たちの悪いジョークとしか思えない。
でも、これが真実なら……。
「何なのその話?! あり得ないっ!!」
紫月さんが叫んだ。
「大体、アメリカは何をしていたのよ?! そんな物騒な物を見過ごしていたの?!」
「当然、アメリカの宇宙防衛網は迎撃を試みた。でも、破壊しきれなかったんだ」
直人さんは吐き捨てた。
「あの日降って来たのは、ミサイル本体じゃない。大気圏突入時に破壊された、ミサイルの破片だ」
「……」
「ここまで調べるのに、随分苦労したよ。かなり危ない橋も渡った」
直人さんはそう言って、自分の肩を揉んだ。
「そうか……、見えてきたよ」
藤堂社長が、呟いた。
「あの国との友好議員連盟のメンバーだったな、三橋と富永は」
「そういうことです、藤堂社長」
頷く直人さんの表情は、出涸らしたコーヒーを口に含んだときのように、苦かった。