虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

想いを繋いで


 私は、意を決して口を開いた。

「あの……、直人さん」

「なんだい?」

 こちらを見た直人さんに、私は言った。

「その『昔話』、私が手直ししてもいいですか?」

「……」

「そんな『昔話』、酷すぎます。悲しすぎます。だから──」

 私は九条くんを見つめながら、語り出した。 

「半年前。全てを失った、可哀想な女の子がいました」

「……」

「女の子は悪い魔法使いに騙されて、全てを奪われて、ニューヨークの空港で一人で泣いていました」

「……」

「そんな女の子の前に、素敵な王子さまが現れました。王子さまは空を駆ける銀色の馬車に乗って、女の子に語りかけました。『そんなところで泣いていないで、この馬車にお乗り。僕と一緒に行こう』」

 紫月さんが、榊さんが、直人さんが、明日美ちゃんが、藤堂社長が、そして、九条くんが、静かに私のことを見つめている。

 私は胸に手を当てて、『昔話』を続けた。

「女の子は涙を拭いて、王子さまの手を取り、銀色の馬車に乗りました。そして二人は虹色の空を、幸せを目指して、どこまでも高く飛んで行きました。──めでたしめでたし」

 私は『昔話』を語り終えると、九条くんに向き直った。

「まあくん。もう止めよう、追いかけるのも、誰かを憎むのも」

「……」

「まあくんの辛い気持ち、悔しい気持ち、わかるよ。でも私、あなたと飛んで行きたい。幸せの空を、どこまでも」

「……理恵」

「まあくん、二人で行こう、幸せの空へ。あなたの心が憎しみや怒りに染まっていると、きっとそれが重荷になって、私たち虹の先まで、たどり着けないと思うから」

「……」

「あの日、あなたが私の手を引いてくれました。だから今日は、私にあなたの手を引かせてください」

 そして私は、九条くんの右手に、自分の右手を差し伸べた。

「行こう、まあくん、虹色の空へ。二人で幸せになろう」

 私はそう言って、九条くんの黒い瞳を見つめた。
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