虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
部屋の隅で、ぱちぱち手を叩く音がした。明日美ちゃんが泣き笑いの顔をしながら、懸命に手を叩いている。
それを見て直人さんが口元を緩ませて、ゆっくりと手を叩き始めた。
そして榊さんが、紫月さんが、最後に藤堂社長が──。
皆が微笑んで、それぞれのペースで手を叩いて、私の『昔話』を祝福してくれる。
ねえ、九条くん。
聞こえるでしょう?
みんな同じ気持ちだよ。
あなたに憎しみの空は似合わない。
あなたは、あなたのお父さんと同じ、世界最高のエアラインパイロットだから。
たった一人の、私の王子さまだから。
だから、
二人手を取り合って、飛んで行こう。
虹色の、空へ──。
「みんな、ありがとう」
九条くんの声で、みんなが手を止めた。
そして皆が見つめる中で、九条くんは右手を伸ばして、私の差し出した右手を握ってくれた。
またみんなから、優しい拍手が湧きおこった。
「ありがとう、理恵」
九条くんは、私に微笑みかけた。
「理恵の言う通りだ。正しさを求める気持ちは大切にしたいけど、過去に囚われたり、怒りに身を任せるのは、間違いだ」
そして九条くんは、直人さんに声をかけた。
「直人。その人工衛星なのかミサイルなのか、訳のわからない代物は、まだ残っているのか?」
「いいや。全部アメリカに破壊されるか、無力化された」
直人さんは言った。
「お前に襲いかかってきた奴が、最後の生き残りだった。あの国もみすみす破壊されると知って、もう打ち上げては来ないだろう」
「そうか……。なら、大丈夫だな」
九条くんは、安心したように微笑んだ。
「あんなものがまだ頭の上を飛んでいるとしたら、とても見過ごせないと思ったが、そういうことなら、俺が意地を張る必要もない」
「ねえ、まあくん」
私は言った。
「私、考えたんだけど、基金を創設したらどうかしら」
「基金?」
「うん。かつてのまあくんや瑠美おばさんのように、大切な人を失って経済的に困っている家庭や、理不尽な境遇に苦しむ人たちの助けになるような、善意の基金」
「……」
「まあくんや紫月さんが、怒りに任せて動き出したら、莫大なお金が無為に使われてしまったはずだよね。だからその何分の一かでも、みんなの幸せのためにお金が使われるのなら、素晴らしいことだと思うの」
私は九条くんを見つめて、言った。
「名前は、『青の基金』なんてどう? 乗客を守って青空を飛び続けた、正隆おじさんを偲んで」