虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
テレビのニュースが南條内閣の総辞職を伝える頃、九条くんは入院生活を終えて、私たちのところに帰ってきた。
誰が言い出すでもなく、皆で集まる流れになって、九条くんと私、それに紫月さん、榊さん、直人さん、明日美ちゃんの6人は、日暮れと共にあの、天王洲のアメリカンダイナーに集まった。
田村部長と決着をつけたあの夜から季節は巡って、もうコートがないと夜風が厳しい季節になっていた。
それでも私たちは、あの日のようにオープンテラスに席を取った。
背の高いガスストーブに火を焚いて、皆がコートやジャケットを羽織ったまま、ホットカクテルやクラムチャウダーで身体を暖めて……。
京浜運河から吹いてくる風は冷たかったけど、冬の夜空に照らし出されるレインボーブリッジは、冴え冴えと映えて美しかった。
そして何より、みんなの雰囲気が暖かくて嬉しかった。他愛もない言葉を交わすだけで、心も身体もぽかぽか暖かくなってくる。
この私たちが時の内閣を総辞職に追い込んだなどと、誰が想像できるだろう。
だが、勝ち誇るような居丈高さは誰にもなくて、ただお互いがお互いを讃えて、ねぎらいたい気分だった。
「九条、空にはいつ頃戻れそうだ?」
直人さんが声をかけた。
「この冬はリハビリに専念して、春には復帰する予定だよ」
九条くんはそう言いながら、マグカップいっぱいのコーヒーに口をつけた。
九条くんの怪我は、幸い命に関わるようなものでは無かったけれど、一歩間違えればパイロット生命を脅かされかねないものだった。
血糊で塞がった左目は角膜が傷んで視力低下が懸念されたし、左腕の怪我は特に酷くて、傷付いた腕で無理に操縦を続けたから、上腕の骨には大きくひびが入って、筋が切れかかっていた。
手術を担当した医師が、
「よく操縦できたというより、よくこれで気を失わなかったと驚くレベル」
の大怪我だったのだ。
九条くんはそれほどの傷を負いながら、機体と乗員・乗客を守り抜いて、私のところに帰ってきてくれた。
それを思うだけで、涙が出るほど、彼のことが愛しくなる。
九条くんが回復するまで、結婚式も延期になったけど、少し遅くなっただけのこと。この冬はリハビリ中の彼を支えて、二人で静かにすごすつもりでいる。