虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「ねえ、理恵」
急に紫月さんが話かけてきた。
「私あなたに、謝らなければならないと思って」
私は驚いて紫月さんを見た。
私が紫月さんに謝るならともかく、紫月さんが私に謝ることなんて……。
「私ね、どこかあなたのこと下に見ていた。正臣の愛は理恵のものになったけど、それは正臣がそう選んだだけで、私があなたに負けたわけじゃないなんて、口ではともかく、心のどこかでそんなふうに思っていたの」
「……」
「でも、間違っていた。今回のことで、よく分かったわ」
皆が手を止めて、紫月さんの言葉に耳を傾けている。榊さんも紫月さんを見守りながら、言葉を妨げなかった。
「今回のこと、私と正臣の二人だったら、怒りに我を忘れて、三橋や富永たちに正面から突っ込んでしまったと思う。そして勝つにせよ負けるにせよ、多くの人を巻き込んでしまったでしょう」
「紫月さん……」
「私には、勝つとか負けるとか、そんな単純な考えしかなかった。一歩引いて、本当に大切なものを考えるなんて、そんな発想できなかった。──きっとだから、正臣は私ではなくて、あなたを選んだのでしょうね」
紫月さんは私に、にっこり微笑んだ。
「いつかあなたが言った、人を愛するって、戦ったり競ったりすることじゃないって言葉の意味、ようやく理解できたの」
私が九条くんから逃げ出そうとしたあの夜、J・F・ケネディ国際空港のVIPラウンジで私が言った言葉を、紫月さんはずっと覚えていてくれた。
私自身が忘れかけていた言葉の切れ端を、この、美しく活力に溢れた人は、ずっと心の奥底に留めていてくれた──。
震えるような思いで彼女を見つめる私に、紫月さんは、こう言って微笑んだ。
「ありがとう、理恵。大切なことを教えてくれて。どうかこれからも、私のお友達でいてくださいね」
そして、紫月さんは少しおどけて、手にしたカクテルグラスを差し出した。
「私たちの友情に、乾杯」
すると、九条くんが、
「ここにいるみんなに。大切な、俺の友人たちに」
そう言って私と紫月さんのグラスに、自分のマグカップの縁を重ねた。
そして榊さん、直人さん、明日美ちゃんも、みんなが口々に「乾杯」と言いながら、グラスの縁を重ねていった。
冬の冴え冴えとした夜空に、澄んだグラスの音色が溶けていく。
風は冷たいけど、心がぽかぽかして、少しも寒くなんてない。