虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
直人さんと明日美ちゃんが、遊歩道への階段を降りて行くのを見送ったあと、紫月さんも、こう言い出した。
「ふぅ。直人にばかりに先に行かれるのは、癪だわね」
そして傍らの榊さんを振り返って、
「私たちも行くわよ」
「かしこまりました、紫月さま」
「──そうじゃなくて」
紫月さんは榊さんの右手を取ると、すっとその手を引いて、背の高い榊さんの腕の中に、自分から身を委ねた。
「し、紫月さま……!」
「なによ。私がいいと言えば、いいのよ」
そして榊さんの腕の中で、榊さんの顔を見上げるようにして、微笑んだ。
「恋する男女は、こんなふうにお互いをいたわりあって歩くものでしょう。あなたはそうしてこなかったの?」
「わ、私は……」
硬直しかかっている榊さんの胸板に、紫月さんはこつんと額をつけて、囁いた。
「いつも私を守ってくれてありがとう、響介」
それは紫月さんが、初めて榊さんを名前で呼んだ瞬間だったのかもしれない。
いつもは物音を立てずに、山猫のように静かに、しなやかに歩く榊さんが、まるで壊れかけのブリキのロボットのようにぎくしゃくしてる。
それでも榊さんの右手は、紫月さんの肩に優しく添えられていた。
ゆっくり、ぎくしゃくと、それでもお互いに気遣い合いながら、紫月さんと榊さんは、レインボーブリッジ側の遊歩道へ歩いて行った。
ぽつんと取り残された、私と九条くん。
お店の方はもう私たちが最後の客のようで、室内店舗の方は灯りを半分落として、後片付けを始めている。
支払いは済ませてあるから、後は帰るだけなんだけど。
九条くんが、くすりと笑った。
「すごいね、直人も紫月も。二人のあんな姿を見るのは初めてだ」
「そうなんだ……」
一見遊び人風だけど、実は思慮深くて真摯な直人さんと、ひたすら真っ直ぐで純粋な明日美ちゃん。
そして、何でもできるスーパーガールだけど、恋愛には不器用な紫月さんと、彼女のためなら水火も辞さない、無敵の執事の榊さん。
二組とも微笑ましくて、お似合いのカップルだと思う。