虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
肩を、抱いて
あれから20年の時が流れて、大人になった私と九条くんは今、マンハッタンのマンションのリビングで、静かに見つめ合っている。
ニューヨーク、午前3時。
明かりを落としたリビングの中、夜も輝きを止めない街の灯が、二人の姿を浮かび上がらせている。
お互いの息遣いが、聞こえる気がした。
20年前、私と九条くんは同じ時間を生きていた。
春は桜並木を歩いて、公園に咲く花の薫りを嗅いだ。
夏はプールではしゃいで、海で同じ夕日を眺めた。
秋は運動会でリレーのバトンを渡して、お祭りでりんご飴を舐めながら歩いた。
冬は霜柱の道を踏みながら登校して、放課後に雪だるまを作って遊んだ。
小学2年の春から4年の夏まで、九条くんと過ごした時間はそれだけなのに、幼い日のキラキラした思い出には、いつもあの人懐っこい笑顔が輝いている。
九条くんがいて、私がいて、真理がちょこちょこついてきて、正隆おじさんと瑠美おばさんが、笑顔で見守ってくれていて……。
暖かく、優しい時間。
二度と戻らない、切ない時間。
二人が刻んだ時の間に、二人の呼び名も変わっていった。
九条くん、正臣くん、まあくん──。
親しみが増すにつれ距離が縮まり、距離が縮まるにつれ呼び名が変わった。
早川さん、理恵ちゃん、理恵──。
呼び交わす名が変わるたびに、二人の気持ちも少しづつ近付いていったのだろう。
あの夏の日、九条くんを乗せた車が、私の街を去って行くまで。
その気持ちが恋だったのか、どうなのか。
試す機会を与えられないまま、私たちは離れ離れになってしまった。