虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
その日は、前日の夜から九条くんが戻って来ているはずで、私は昨日の夕方までに必要なことは済ませておいて、リビングのガラステーブルに連絡ごとを記したメッセージカードだけ置いて、今日はお休みの日にするつもりだった。
特にすることもないので、ミッドタウンに出て公共図書館で本でも読もうかなんて考えていたら、アパートの前に見覚えのある黒いクーペが止まった。
クーペのドアが空いて、中から降りて来たのは、
(九条くん、どうして……?)
アパートの前に立って、九条くんは辺りをきょろきょろ見廻している。慌てて部屋を飛び出して、一階のエントランスまで駆け降りた。
「理恵」
私に気付いて、九条くんは嬉しそうに笑った。
「まあくん、一体どうしたの?」
九条くんは、えっ?! という顔になって、
「俺は真理ちゃんから、理恵が俺のところに引越す気になったから、迎えに来てほしいって電話で言われて……」
九条くんと私が顔を見合わせていると、
「そういうことだから、理恵は早く荷物をまとめてね」
いつの間にか、エントランスに真理が立っていた。
きょとんとしている私に、真理は近付いて小声で、
「今度こそうまくやりなさいよ、理恵」
そう耳打ちして、いたずらっぽい笑みを見せた。