虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

セレブリティ


 九条くんのマンションは超高級なだけあって、1階にはイタリアンの高級レストランが、2階には会員制のフィットネスジムが入っている。
 昼食後、九条くんはジムにトレーニングに行って、私は観葉植物の手入れをしながら、彼の帰りを待っていた。

 そんなとき、急に来訪者を知らせるチャイムが鳴った。
 壁のモニターに目をやると、1階のエントランスに立つ男性と女性、二人の人影が映し出されていた。

 思わず、目が止まった。二人とも日本人らしかった。
 
 女性は私と同じ歳くらいで、ドレープが鮮やかなクリムゾンのスーツを軽く着こなして、柔らかなウェーブを描く黒髪を緩くまとめて、右肩に流していた。 
 少し年上な雰囲気の男性は、すらりとした身体をトラディショナルなスーツに包んで、細面に銀縁の丸眼鏡をかけていた。

 ファッション誌から抜け出して来たような二人。しばらく見惚れたあと、慌ててモニター越しに声をかけた。

「どちらさまでしょうか?」

「……あなた、私を知らないの?」

 女性が、苛立ちを含んだ声で言った。 

「いいわ、あなたに用は無いから。早く正臣を出して」

 いきなりなもの言いに、少しむっとした。
 九条くんを呼びすてにする、この人は誰だろう。

「九条くんは2階のジムに行っていて、今こちらにはいません」

 九条くんから、自分がいない間は誰もフロアに上げないようにといわれていて、この二人にもお引取り願うつもりだったのだけど、彼女が次に発した言葉に、思考が止まってしまった。

「あら。ではそちらで待たせていただこうかしら。その程度のこと、フィアンセには当然の権利ですよね」
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