虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「煽るだなんて、私は事実を指摘しただけよ」
紫月さんは細い首を軽く傾けて、
「それよりも正臣。久しぶりに合った婚約者に、なにか特別な言葉はないの?」
「婚約なんて、俺は承知したおぼえはないぞ」
「あら、あなたのお義父さまのお墨付きよ」
「だからあの人は──!」
言いかけて、九条くんは不安げに見つめる私に気が付いた。
「ごめん、理恵。わかるように説明するよ」
そう言って私の手に、自分の大きな手をそっと重ねてくれた。
そして少し向き直って、
「それと榊さん。俺が紫月と話すたびに、そんな顔で俺を睨むのは止めてもらえませんか? これじゃおちおち話もできませんよ」
気が付くと、紫月さんの横に座る細面の男性は、刺し貫くような視線をぴたりと九条くんに当てていた。
九条くんは軽くため息をつくと、私に語りかけた。
「理恵。企業グループの御倉って聞いたことあるだろう?」
私は、はっと息を呑んだ。
「そう、紫月は御倉グループの当主の孫娘だ。榊さんは、その紫月の秘書兼ボディガードかな」
「私は紫月さまの執事です。九条さま」
榊さんが、フラットな口調で訂正した。