虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
「父さんがいなくなって、理恵の街から引っ越してしばらくは、大変だったよ」
九条くんはその頃を思い出すように、軽く目を閉じた。
「銀行の預貯金や父さんの保険金で衣食に困ることは無かったけど、何処に行っても俺と母さんは冷たい目で見られて、母さんにまともな働き口も無かった」
そんな状況で九条くんと瑠美おばさんは、二年ばかり全国を転々としたのだそうだ。
「俺ももう、中学を出たらすぐに働く覚悟を決めていた。これ以上、母さんに無理をさせたくなかったから。でも、そんなとき……」
横浜の下町に引っ越して、外国語に堪能な瑠美おばさんが、小さな貿易会社にパートで勤め始めた、ある日のことだった。
「アラブのとある国から通商団が来日して、その接待と通訳に、母さんも駆り出された。商談の通訳からお酒の接待までさせられたらしいが、その通商団の一人にイヴン・アル・シャキールという人がいて」
九条くんは一旦言葉を区切り、また語り始めた。
「そのアル・シャキールが、母さんを見初めたんだ」
「シャキールって、もしかして……」
以前、商社のオフィスで、その名を何度も耳にしていた。
「ああ。ドバイの石油大手、シャキール・オイルの跡取り息子だったんだ」