虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
どれだけ時間が経ったのだろう、ノックの音で目を覚ました。
「理恵、開けてくれる?」
私を気遣う、九条くんの優しい声。
「晩ごはんできたよ、一緒に食べない?」
「……ごめんなさい、ちょっと頭が痛くて」
「薬、持って来ようか?」
「いいんです。このまま横になっています」
私はなんて嫌な女なんだろう。
九条くんはこんなにも優しいのに、彼を傷つけるような言葉しか出てこない。
「理恵」
ドア越しに、九条くんはためらいがちに語りかけてきた。
「資産の件、黙っていて悪かった。あんまり馬鹿げた数字なんで、驚かせたくなかったんだ」
「……やっぱり、本当なんだね」
九条くんは、やはり別世界の人だった。
まるで、あべこべの竹取物語みたいに、私の知っている優しいまあくんは、いつの間にか月の世界の住人になってしまっていた。
「紫月のことなら気にしなくていい。たまにああやって押しかけて来ては、言いたいことを言って帰っていくだけだから」
「紫月さん、本気だよ」
私も女だから、わかる。
お金持ち同士の婚約がどんなものなのか分からないけど、彼女がいまだ九条くんに声をかけてくること自体が証拠だ。
事情はともかく、彼女は15年以上も待たされたままなのに、婚約を解消していないのだから。
20年前に離ればなれになった私と、15年以上待ち続けている紫月さん。
どちらが彼を、愛していると言えるのだろう。
「理恵。晩ごはんはラップをかけて冷蔵庫にしまっておくから、よかったら食べてね」
九条くんはそう言って、戻って行った。
またとめどなく、涙が溢れた。