虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
J・F ・ケネディ国際空港の白い滑走路の先が、ほのかに明るくなり始めた。
夜が白み始めている。
時計を見ると、4時30分を指していた。
私が乗る便のボーディングブリッジへのゲートに、搭乗開始のサインが表示される。
私はチケットを用意して、ゲートに進む乗客の列に並んだ。
(さよなら、まあくん──)
胸の中で、そう呟いたときだった。
「行くなっ! 理恵!!」
振り向くとエントランスゲートに、パイロットの制服に身を包んだ九条くんが立っていた。
忘れていた。
九条くんはエアラインパイロットだから、ゲートの先にも簡単なチェックだけで進めるんだ。
でも、必死で走ってきたことがわかる。
髪が乱れて、上着のボタンも止めずにネクタイが緩んで垂れ下がっている。
私を追って、ここまで、必死で──。
「理恵っ! 行くなっ! 行かないでくれ!!」
九条くんの声が響き渡る。
乗客も航空会社のスタッフも、呆気に取られて彼を見ていた。
私は半歩だけ、彼の方に歩みかけた。
でもすぐに唇を噛んで向きを変えて、搭乗ゲートに駆け込もうとした。
「理恵っ!!」
ゲートのタッチパネルに触れようとした瞬間、私の身体は、背の高い九条くんの腕の中にしっかりと抱きかかえられていた。
「いやだ、離して……っ!」
私は身をよじろうとしたけど、すっと力が抜けてしまった。
私の頬にぽつりと、暖かいものが触れたから。
涙。
私のじゃない、九条くんの。
泣いている、九条くんが。
お金持ちで、超エリートで、トップセレブとも互角に話す九条くんが、私のために──。
「理恵……お願いだ、俺の前から、いなくならないでくれ……」
九条くんが、小さな子供みたいにすすりあげている。
私は彼の広い背中に、そっと腕を回した。