虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
たっぷり2時間は話し込んでいたのか、その男性と九条くんが部屋から出て来た頃には、リビングから見えるエンパイア・ステート・ビルが、夕陽に照らされて紅く輝いていた。
部屋を出ていく男性を見送ったあと、九条くんは、
「彼に頼み事をしていて、その関係の話だった」
私にそう説明した。
不安になる。
九条くんがこんなに話し辛そうにするなんて、初めてのことだった。
でも九条くんの横顔が、それ以上は聞かないでと語っているようで、私は言いかけた言葉を呑み込むしかなかった。
でも……。
九条くんは、私の知らない顔をまだ幾つも持っている。当たり前のことなんだろうけど、その当たり前のことが、少し寂しかった。
ところが本当の大波は、その次の日にやって来た。
朝食を終えて、フライト待ちの九条くんとリビングでくつろいでいた時だった。
急に、私のスマホが鳴った。
妹の真理だろうと思って画面を見ると、
(明日美ちゃん?! どうして──)
会社の後輩だった、篠原明日美さんからの電話だった。時刻表示を見ると、朝の9時30分。東京は深夜11時30 分のはずだ。
慌てて通話のタブをタップすると、
『先輩……先輩……』
篠原さんの泣きじゃくる声が飛び込んできた。
「どうしたの明日美ちゃん、何があったの?」
『助けて、先輩……。私、田村部長に呼び出されて……、今、ホテルに……』
一番聞きたくなかった、おぞましい名前。
私は白昼亡霊に会ったかのように、その場に立ち尽くした。