虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

私を返して!


「理由を説明してください、部長」

 昼下りの部長室でそう問い詰めた私に、田村部長はおやおや、とでも言いたげな雰囲気で、

「早川くん、感情的になるなんて君らしくもないな。これは君のためなんだよ」

「……」
  
「考えてもみたまえ。このプロジェクトは大規模かつ広範囲で、主任クラスのきみには手に余る。面倒な交渉事を、きみに代わって私が引き受けようというんじゃないか」

「では、なぜプロジェクトリーダーが私ではないんですか? この黒木さんという方は、この手のプロジェクトの経験がお有りなんですか?」 

「いや、彼女も初めてのはずだ」

 田村部長は、こともなげに言った。

「ただ、黒木くんは交渉事に長けていて、他業種へのプレゼンや他部門への折衝は、君よりも彼女の方に一日の長がある踏んだんだ」

「じゃあ、私は……?」

「黒木くんを助けて、存分に腕をふるってくれたまえ」

 田村部長は、いつもの柔和な笑みを浮かべていた。
 でも私は、その目が氷のように冷たく光っているのを見てしまった。
 まるでこれ以上手を煩わせるなと、言わんばかりに──。

 私は今まで、この人の何を見てきたのだろう。
 いたたまれずに部長室を飛び出した。

 非常階段を駆け上がって、誰もいない屋上に出た。陽はもう、くすんだ色に傾き始めている。
 
 手摺代わりのフェンスに指を掛けて、自分の荒い息を聞いていた。
 
 とめどなく、涙が溢れた。
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