虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 こうして、私があたためてきた夢のプロジェクトは、田村部長よって愛人へのプレゼントにされてしまった。

 その翌日、私は辞表を手にして田村部長と向き合っていた。

 田村部長は、一応慰留した。

「早川くん、意固地になるな。君一人で何ができる」

 でも悪い魔法が解けた私は、きちんと田村部長の心の声を聞き分けていた。
 お前一人が歯向かったところで、何も変わらないぞ、と。

 そんな部長に、私はこう告げた。

「部長。私は私を取り戻したいんです。あなたの近くにいては、私はあなたの道具でしかありませんから」

 同じ道具でも、仕事に使う道具ならばまだ耐えられた。私はあなたの、都合のいいおもちゃじゃない。

 田村部長は、いつもの柔和な笑みを浮かべていた。
 でも部長の目はあの時と同じ、凍てつくような冷たい光をたたえていた。

 言う事を聞かなくなったおもちゃになど、田村部長はもう興味も関心もなかったのだろう。私の辞表はそのまま受理された。

 私は8年間勤めた会社を辞めた。
 
 田村部長を恐れてか、私の退職に触れようとする人はほとんどいなかった。
 ただ一人、後輩の篠原さんだけが、私の手を取って涙を流してくれた。

「先輩……。私、悔しいです……」

 私の資料集めを休日返上で付き合ってくれた彼女だけが、あのプロジェクトが私の夢のかけらだったことを知っていた。

「ありがとう、明日美ちゃん。でも、もういいの」

 悲しみも未練も無かった。
 ただ、胸の奥にぽっかり空いた大きな穴が、虚ろな音を響かせているだけだった。

「明日美ちゃん。田村部長と黒木さんには、心を許さないでね。私みたいになっちゃうから……」

 そして私は、住み馴れた世田谷のマンションを整理して、ニューヨーク行きのチケットを買った──。
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