虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
あの辛い記憶を、私は喉を詰まらせ、肩を震わせながら、九条くんに話した。
話しが進むうち、背中を支えるように添えられていた彼の手が、次第に力を増して、話し終える頃には、私は九条くんに強く抱き締められていた。
そのままベッドに倒れ込んで、私は九条くんの腕の中で、ひとしきり泣いた。
九条くんは、私の頬に、瞼に、何度も口付けして、涙をそっと啜ってくれた。
「まあくん……まあくん……」
私は何度も繰り返して、赤ちゃんがお母さんに甘えるように、彼の胸に顔をこすりつけた。
「理恵……」
九条くんは、私を守るように深く抱き締めながら、
「俺もいろいろあったし、辛い思いもいっぱいしてきた。随分と酷い奴にも会ってきたけど……」
そして歯を噛み鳴らすように、呟いた。
「真剣に相手を殺したいと思ったのは、これが初めてだ」
「まあくん……」
私は彼の腕の中で、小さく首を横に振った。
そんなことしなくていい。
私の過去のせいで、あなたに迷惑をかけたくない。
こんなにも私を愛してくれる、あなたに──。
「理恵」
九条くんが、言った。
「理恵も思うことはあるだろうけど、俺は理恵を危険な目に遭わせたくない。その田村って奴、とても理恵の手に負えるような相手じゃない」
そして、
「明日美さんは俺が人を遣って助けるから、理恵はこのまま、俺のそばにいてくれないか」
私は、少しためらったけど、こう答えた。
「まあくん、ありがとう。でも私、東京に行きたい」
九条くんの目を見つめながら、私は言った。
「行って明日美ちゃんを助けたい。田村部長と決着をつけたい。私の過去を、私の手で清算したいの。私自身を、取り戻すために」